問題:
解決策1:自然農歴は23年目になりますが、現在の糸島市二丈一貴山では19年目です。私どもの実践地は中山間地の棚田です。これから、土地を持たない都会生活の方たちが自給や営農を考える時、このような環境が入手しやすいと思われますが、山間部の棚田は、その土質故に、水がたまらない、穴がしょっちゅう空く、水が冷たく、分けつが進まないなどの問題がおこりがちです。実際、私どもの水田も、そのような状況下にありました。
そこで、私たちが、この19年間に少しずつ取り組んできた工夫について書いてみます。
1.溜めマス・・・うちの田は、すぐ横の川の水を高低差を利用して引いています。川の水口には枯葉や石が入らないよう網を置き、パイプで地中を通って流れてくる、田の取水口には、溜めマスを設置しました。以前は水の調整にいちいち川に降りて行っていましたが、大変便利になりました。
2.木の板・・・山手で水が冷たいので、山の田ではよく波トタンが使われます。うちでは、初めの頃はトタンも使いましたが、今は木の板をめぐらせています。製材所の端材なので、安価です。このように川の冷たい水を直接田に入れず、少しまわしてあたたまってから田の中に入るようにしています。
3.田の畝と畝の間を1枚ずつせき止める堤を作る・・・田植えは水口の方から順に1枚ずつやります、その時、草を倒して作付縄を張ったら1列ずつ足でよく踏んでモグラ穴をつぶすようにします。この時、普通は ABCDの畝は1枚の田んぼですから全てに水が廻りますが、冬の間に空いてしまったモグラ穴やカニ穴から水が洩れてしまうことがあります。それでAの畝に田植えする時はBCDに水が廻らないようせき止めます。Aの所の田植がすんだらBのところまで水を入れ、CDに入らないようせき止めます。このように、田の中の畝を1枚ずつていねいに田植えして、最後は全体に水が廻るようにすると、ずいぶん水洩れが解消されます。あとは毎日、必ず見廻ることです。
4.畦を広く・・・棚田の畦はそのまま土手となっていますので、この土手が崩れたらたいへんなことになります。そこで私たちは従来の土手の幅を狭くても70~80、広いところでは1メートルくらいに広くとるようにしました。お米を作る面積は狭くなってしまいますが、土手や畦が壊れることを考えると、これはよい方法です。
以上のような工夫で、19年間の重なりと共に、かなり豊かになってきています。また、その重なりにより、土中の膠質が増え、手で触った感じがずいぶん変化してきています。その土質の変化もあって、こまめに水の管理をすれば、かなり、当初の問題は軽減されると思います。
(福岡県 鏡山英二さん・悦子さん、約19年目)
解決策2:1枚の(田んぼの)中をずっと踏んで歩いたり手をつくしても(水が)たまらない場合、3つの点に注意して、どこから抜けているか発見しています。
1つは、「水をにごらせて」わかる方法です。水がまわっていくところにそって泥をかきまぜて、水をにごらせて、にごりをずっと追っていく。そうすると穴があいたところから、すっと抜けていくのが見えるときがあります。次に水をにごらした下の段をよく見ていますと、にごった水が下の段からふっと浮かび上がってくるときがあります。浮あがった下の段の穴からたどって、上の段のどこにいっているか、それで見つかることがあります。
2つ目に、周囲はそれでわかることが多いのですが、田んぼの中の方からもれている時はほとんどわからないので、“裸足”になります。“裸足”になって「温度を感じます」。温度を感じながら、その1枚をずっと歩くんです。そしたら水がまわっていくところにそって、だんだん温度が上がってくることがわかります。でも、ここはこんなに冷たいのはおかしいなって思うところがあるんです。そしたらそこから漏れているときがあります。
3つ目に、温度が冷たいなおかしいなと思ったら、次に「耳をつかって音を聞きます」。ジョボジョボジョボとか、ふだんの川の音とちょっと違うなっていう音がする時があるんです。すーっというのが聞こえるときがあります。
ぼくはこの3つの点で(水がもれている場所を)探しています。
(愛媛県 山岡亨さん)
編集記:お米にとって、やはり水は必要なものですね。水がたまるのと、たまらないのでは、育ちが全く異なりますね。また水温も、お米の育ちに大きく影響しますね。
ひとまず、2014年3月に行われた全国実践者の集いの「田畑における具体的問題と解決」の学びのレポートをもとに掲載してみました。
このテーマでは、皆様たくさんの体験談をお持ちだと思いますので、是非お寄せください。(2014/9/6)
解決策3:田んぼの水がなかなか溜まらなかったのですが、5年目にしてたっぷり溜まるようになった経緯のお話です。
5年前、15年以上耕作放棄されていたところを借りて畝立てし、田んぼにしました。場所は三重県の山間地で、標高約160メートルの川沿いの土地です。年間最高気温は33度、最低気温は-4度くらい。田んぼの耕作土は20センチ程度と浅く、土質は砂っぽく石が多く、当初はチガヤ・ススキ・セイタカアワダチソウ等が繁茂していました。
水は沢からホースで引いてかけ流すようにしましたが、沢の水量に限りがあるため出来る限り水抜けをふせぐ必要があり、1年目より毎年田んぼの四方を畦塗りしています。
田んぼは住まいのすぐ近くにあるので、毎日足を運ぶことができる環境にあります。夫婦で取り組んでいるため人手は二人あり、体力は二人とも中程度です。それぞれ務めにも出ており、田畑は自給用です。
1~2年目。上の田んぼ(A)を畝立てし、お米づくりのスタート。溝のモグラ穴は埋めて溝にはなんとか水が溜まるようになりましたが、田んぼ全体から水がもれている感じで、どうしても畝の上まで上がりませんでした。沢からの水は十分な量が入ってきているのに、また洩れている穴も見当たらないのに、どうして溜まらないのか。
その原因は、
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耕作土、床が共に浅いこと。
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土質に粘りが足りないこと。
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繁茂している荒々しい草(チガヤ・ススキ・セイタカアワダチソウ等)の根っこが、地中一面に隙間を作っていること。
……等が考えられました。
対策として、毎日、溝の中を長靴で練って歩きました。2年目からは田植え前に、溝だけでなく畝の上を長靴で練りながら踏んで歩きました(この作業は、うちでは「畝踏み」と呼んでいます)。自由に動かせるホースで畝の上に直接水を入れながら、すべての畝の全体を踏むことを2セット行ったところ、なんとか畝の上まで水に浸かるようになりました。
3年目。下の田んぼ(B)を畝立てし、面積が合計3.5畝に増えました。入ってくる水量と水の溜まり具合から、この面積が可能かどうか、挑戦でした。畦塗りは四方して、それでもやはり畝の上までは水が上がらないので、同じように畝の上にホースで直接水を入れつつ、畝踏みをしてなんとか水を溜めてから田植えをしました。畝の上に水が溜まっていく程に、だんだん抜けにくくなり、上の田んぼ(A)から溢れた水を下の田んぼ(B)に落とすことができるまでになりました。
ただ、徹底した畝踏みは時間と体力が必要で、そのために田植えが遅れがちとなります。この作業を、これからも毎年するのは大変だと思う一方、耕さないで作り続けていくうちにだんだん水が抜けにくくなり、ここまでする必要がなくなるのではないか……とも思いながら、次の年をむかえました。
4年目。妻が一念発起し、下の田んぼ(B)を一人でやってみたいとのことで、初めて一人で畦塗りをしました。畝踏みも妻が一人でしましたが、どうしても水位が上がらず、とうとう下の田んぼは最後まで畝の中の方には水が乗らないまま終わりました。
水が溜まらなかった原因としては、
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妻は畦塗りのコツを得ていなかったため、土を上に上げ過ぎてしまい、溝の底に残す土が少なくなり、四方や溝底から水が抜けた。
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妻の体重では、畝の上を長靴で練り歩きながら踏む力が及ばず、田んぼの全体から水が抜けた。
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この年は特に雨量が少なかったため、入ってくる水量が少なく、何度か沢の水が枯れるほどだった。
……等が考えられます。
5年目。とにかく水を溜める!という思いで、畦塗りは、すべて夫が担当、妻は田植え、と役割分担とし、畝踏みは二人で念入りにしました。やはり田植えは遅れましたが、上下の田んぼとも、たっぷり水が溜まるようになりました。この年は雨が多く沢の水が豊富だったこともあって、たびたび水位が上がり過ぎ、入ってくる水を止めなければならないほどになりました。(常にたくさん水を入れて余分をかけ流すのは養分が流れていきそうでもったいないので、うちでは水が十分溜まったら入れるのを止めて、また減ったら入れるというふうにしています)
<5年間で水が溜まるようになったポイント>
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【耕さずに、毎年お米を作りつづけた】年々、草の様子、土の様子が変わり、土に粘り気が出てきた。目がつまってきて、田んぼ全体から水が抜けにくくなってきた。
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【四方を畦塗り】畦の四方を毎年畦塗りし、床が浅いので畦塗りの仕方を少し工夫した。土はよく練り、畦の高さよりも土の厚みを重視し、溝底にも土を残す(落とす)ようにした。
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【畝踏み】毎年、田植え前に、畝の上全体を長靴で練り歩きモグラ穴をつぶした。コツは、水が少しでも乗っている低いところや溝に近いところから丁寧に踏み、少しずつ水の乗る範囲を広げていく。畝の上に水が乗っている部分が少しも無い場合は、ホースを畝の上に乗せて水を入れながら踏む。踏んでいない所が全く無いというぐらいに念入りに踏む。踏み方は、少しひねりを効かせながら練るような感じで。これを畝全体が水に浸かるまで(2セットぐらい)やる。一度畝全体が水に浸かるようになれば、ぐんと水持ちが良くなる。この作業は大変だが、確実に年々楽になってきた。
お陰で、5年目の今年はお米の育ちも良いので、田植えが多少遅れたとしても水をしっかり溜めることの大切さを実感しています。特に作付け5年目となる上の田んぼ(A)は、かなり水が抜けにくくなっていることを感じています。3年目となる下の田んぼ(B)は、夏中たっぷり水が溜まり続けたのは今年がはじめてなので、畝の真ん中で生き続けていたセイタカアワダチソウとヨモギの根っこが朽ちた感じがしており、そのため来年は更に水が抜けにくくなるかもしれません。
この先6年、7年、10年……と年数を重ねていくことで、だんだん楽に水が溜まるようになるのでは……と、感じるものがあります。水さえ溜まるようになれば、田んぼの面積を広げたいと思っています。
(2014年 三重県 佐藤美佳子さん投稿)
解決策4:以前、排水口を設けていないにもかかわらず畝のツラまで水が溜まらないと投稿した、滋賀県のNです。
私の田んぼは細長い三日月型の形をしていて、田んぼの面積を少しでも稼ぐためという理由と、借りた時の畝と溝をそのまま利用したという理由で、畦道、特に下の段の田んぼに接する方を狭くしてしまいました。幅にして50~80センチくらいしかありませんでした。
今年3月の全国集会(第22回 妙なる畑の会 全国実践者の集い「田畑における具体的問題と解決」の学び)で出た話から畦道を広くする必要性を感じたので、4月から畦を広くする作業を始めました。田んぼ側の土を削ったくらいでは、土が全然足りないので、今年地主さんのご厚意で確保できた土を一輪車で何回も運び上げました。運ぶのも、その土を練るのも、それを崩れないように盛っていくのもかなり大変でしたが、畦道の幅を20~30センチくらい広げたお蔭で、去年まではどうあがいても畝のツラまで水が溜まらなかったのが、今年は条件がそろえばツラの上1センチ~2センチくらい水がのるようになりました。平均して4~5センチ水位が上がったと思います。
これが一時的なものなのか、継続的なものなのかはわからないので、来年以降も見守っていく必要がありますが、1つの成果だと思いますので、報告させていただきます。
(2014/10/18 滋賀県 Nさん投稿)
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