・豪雪地帯での自然農の米作り ~箱育苗~

 私は、山形県の豪雪地帯で、平成9年から自然農をやっています。

 この冬は、地元の人も生まれて初めてという、雪の少なさでした。(最高で40センチくらい)通常は2メートルくらいで、雪解けは、ゴールデンウイーク頃ですので、長野県のTOMさんのところと気候は似ていると思われます。

 米作りは平成11年からで、事情があり4年ほど休んだ期間があったので、17年くらいになります。初めは、川口さん〔編集者注:川口由一さんのこと〕のように、田んぼの一角で苗代を作ってやっていたのですが、一時専業農家になり、面積が増えて苗代の草取りが大変なのと、田植えの時間短縮のため、箱育苗に切り替えました。

 

 箱は、通常の苗箱ではなく、知り合いの方からいただいた、570個ほどの四角い小さな仕切りのあるポット苗箱で、一つの穴(19㎜×19㎜)に2~3粒蒔いて、(専用の手動種まき機があります。ピンセットで蒔いたこともあります。)田植え時には、ちぎらずにスポッと苗が取れるので、大変重宝しています。

 

 土は、このあたりは、粘土が強くて、育苗には向かないため、無肥料の水稲用培土を購入し、それに自分で焼いたくん炭を混ぜて(だいたい3対1くらい)、培土20キロに対し、200cc位元肥として、発酵油かすを混ぜています。今年は、腐葉土もふるって、少し入れようかと思っています。覆土用には、油かすは入れません。

 

 種籾自身の力で、2葉から2葉半くらいまでは育ちますが、苗箱という特殊な生育環境で育つので、追肥をします。風のない日の夕方、一箱にひとつかみくらいの発酵油かすを上からふります。朝は、葉の表面につゆが付いているので、だめです。

 春、気温が高いと養分をどんどん吸いますが、気温が低いと吸わないので、葉色をみてやるのですが、化学肥料と違って、効いてくるのが1週間後くらい先なので、さじ加減が難しいところでもあります。

 お米を育てるために育苗するのですから、肥料をやることに抵抗はありません。仮に、田んぼの一角でやったとしても、そこがやせていたら育たないので、やった方がいいと思います。川口さんも以前、苗床に米ぬかを補っておられたと思います。

 

 ちなみにうちは、試行錯誤して、苗箱を、家の前のコンクリート舗装の平らなところに置いています。そして、だいたい一日2回、土の表面の乾き具合を見て、上から水をかけます。雨を降らすような感じで、空気を通すように。初めは、土の上に置いていたのですが、完全に平らにするのが難しく、でこぼこがあると乾きやすいので、試しにコンクリート舗装の上に置いたら、保湿性があって乾きにくく、具合が良いので、結局この方法が、一番根張りの良い苗が出来ることがわかりました。プール育苗等しないで、面倒でも上から灌水する方が、水に浸りっぱなしでないので、頑張って、根を張るようです。

 

 あと、古代米の黒米は、丈が出ても根が張らず、ポットだと根が崩れて却って植えにくいので、通常、慣行農家の方が使っている育苗箱を使って、ぱらぱらと手で種籾を蒔いて、ちぎって植えています。

 

 長野県のTOMさんは、「苗が大きくならない」というお悩みのようですが、1箱に何g蒔いているのでしょうか?

 仮に、慣行の方のように100gも蒔いたら、肥料をやらないと大きくなりません。また、たくさん蒔くと大きくなったときに蒸れて、病気が出やすいです。ポット田植えをしている有機農家の方は、1箱25gだそうです。苗箱の数が多くなりますが、薄蒔きにすると、苗は大きくなりやすいです。

 

 あと、箱育苗の場合、川口さんのように、大きく立派な苗を目指すのは無理があります。私の経験では、8㎝くらいでも4葉を過ぎていれば、植えれば立派に育ちました。でも、やっぱり植えにくいし、田んぼの全体が平らでないと、水を張ったときに水没する苗が出るので、12㎝くらいはほしいですよね。

 

 種まきの時期と、植えるタイミングも重要だと思います。種まきは、桜の開花に合わせています。慣行農家よりだいぶ遅いです。このあたりの農家は皆、芽出しして、ハウスかトンネルで保温して育苗します。早く苗を作って、早く田植えして収量を上げるためです。

 

 うちでは、川口さんのように、水選だけして(普通の農家は、塩水選)その後、芽出しも保温もしません。種籾が自分で考えて発芽するので、寒さに強い、丈夫な苗に育ちます。田植えは、だいたい6月15日以降になります。ここでは、夏が暑いせいか、6月いっぱいまでに植えれば、立派に育ちます。集落の田植えが皆終わって、いつもトリを取るのがうちです。(笑)

 

 うちでは、早く植えるとよくありません。田んぼの草を出来るだけ育ててから刈り、畦の草も刈って入れます。雑草が、まだこれからぐんぐん育とうとしている頃に植えると、また、すぐに復活して草刈りが大変になります。世間とは真逆に、春から草が立派に大きくなるのを心待ちにして、その後田植えの段取りをします。

 ただ、長野県のTOMさんのところは標高550メートルとあり、ここより標高が高いので、田植えがあまり遅いと、難しいかもしれませんね。(こちらは、350メートル位)

 うちでは、研究好きの夫が昔、何日までに植えたら穂が出来るか実験し、7月5日まで大丈夫でした。でも、収量が落ちるので、6月中に植えるようにしています。周りの既成概念にとらわれず、自分で、確かめてみるのも良いと思います。

 盛夏の気温が低いとしたら、苗を育てるには、適宜、躊躇無く追肥して必要な大きさを確保し、あとは、環境の良い自然農の田んぼで、のびのび育ててあげれば、元気なお米が育つと思います。

 

 うちは、田んぼはもう10年以上無肥料ですが、初めの頃は、とてもやせていたので、米ぬかをバンバン入れて、草を育てました。

 無肥料でいけるようになっても、畦草や土手の草は、どうせ刈らないといけないので、もったいないし、肥沃な土地ではないので、全部田んぼに入れています。

 また、ここ10年くらいは、草の生え方や、稲の状態を見て、地力が落ちてきたと思ったら、その田んぼは、1~2年休ませるようにしています。休ませる間は、出来るだけ草を生やしたり、畦草や土手草をせっせと入れて、減反確認で「草刈りしてください」と言われたら、周わりの人の気分を悪くしないように、高く刈って刈ったふりをして(笑)草を根絶やしにしないと、見事に復活します。田んぼの枚数に余裕がないと出来ませんが。

 暖かい地方では、冬草が育つと思いますが、何せ半年間雪の下なので、太陽エネルギーの量が温暖地とは違うので、そのハンデを補ってあげないと、豊かに育てるのは、難しいと思います。

 

 育苗のことだけ切り離せないので、田んぼのことも書きましたが、要は、自分が何を求めるかだと思います。うちは、専業になったときは、6反ほどやっていたので、田んぼによってものすごく出来が違っていて、苦しみもありましたが、勉強になりました。

 うちは、新規就農だったので、様々な方から田んぼを譲ってもらいました。地力のあるところは、初めから結構よく出来たし、地力の無いところは、春、草があまり生えず、田植え後に水草ばかり生えて、夏の間中、3回除草しても、稲がろくに育たないことが何年も続きました。

 この地では、イボ草などの水草がたくさん生えるときは、まだその田んぼは、稲の育つ生育環境になっていないということだと思いました。その田で、反1俵しか採れなかったら、その力しかないということだと思います。もし、自分がもっと収量が欲しければ、米ぬかや油かすを補って、収量を上げる方法もあると思います。ただ、肥料を補えば、草ももっと生えるし、補いすぎれば、病気や虫害のリスクも伴います。

 私の経験では、地力の無い慣行の田から切り替えた場合、稲のために肥料をやるのでなく、雑草のために米ぬかを撒いて育て、5年ほどすると、スズメノテッポウが、春に生えるようになり、7年目からは、スズメノテッポウが春、緑の絨毯のようになり、こうなると、無肥料で除草も1回程度になり、よく出来るようになりました。その土地で、どんな草が生えているか、どういう条件だとその草が生えるのか、よく観察する事も大切だと思います。

 よく、「苗半作」と言いますが、これは、田んぼの条件を肥料と農薬と耕すことによって、コントロールできる慣行農法の場合で、自然農では、お米がよく育つかは、田んぼの力にかかっていると思います。うちの場合、小さな苗でも、地力のある田に植えたらよく育ったし、だめな田にいい苗を植えても、収量は上がりませんでした。

 要は、稲が生育できる条件の田んぼになるまで、待てるか、ということだと思います。自然農では、その田んぼの力に応じたお米をいただくのが、一番合っているのではないか、と思います。

 温暖地の河川敷のような肥沃な土地では、収量が多いでしょうし、うちのところでは、田んぼによりますが、一反4俵、多くて5俵位が適量な気がしています。おととし、つい草を入れすぎてしまって、反7俵ほど採れてしまい、ちょっと採り過ぎてしまったかな、と反省しました。

 栽培する人自身の生活設計で、始めたばかりの痩せ地で、1枚しか田んぼがないので、どうしても家族で食べるため、その田の地力以上にお米が欲しければ、肥料を補って、頑張って手入れをして収量を確保するしかないでしょう。

 ゆっくりと、田んぼの変化を待てるならば、無理せず、その田から、いただけるだけいただいて、足りない分は、しばらく有機米でも買おうか、と折り合いをつけてもいいのではないかと思います。

 うちでは、無肥料でお米が出来るようになってから、籾で貯蔵している間の、米蛾の発生も非常に減りました。友人の有機米には、こくぞう虫がつくのに、うちの自然農米には、全くつきません。また、介護のため、4年間お米が作れなかったとき、3年前のお米を食べていましたが、ほとんど食味は落ちませんでした。この事だけでも、自然農ってすごいなあとつくづく思いました。

 育苗のことだけ書いても、全体を考えられないので、つい、いろいろ書いてしまい、長くなってすみませんでした。ご参考になれば、嬉しいです。

(2020/4/6 山形県 阪本美苗さん投稿)

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